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中毒:その原因物質を特定、除去、治療する手順についての考察。

2021/09/05
 
ハーブティー
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意図せぬ食中毒から自殺企図まで、ヒトはいろいろなもので中毒を起こしてしまうことがある。

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ヒトから血液を採取し、検査する。
国立がん研究センター提供

急性中毒

治療の原則は、適切な全身管理と対症療法、原因薬毒物の吸収阻止、排泄促進、解毒・拮抗療法となる。
また自殺企図、自傷行為に伴う例も多く、その場合には精神科的な対応も必要となる。
原因物質や吸収量などの情報には不確定要素が多いこともあり、常に重症化の可能性を考えて対処する必要がある。ときには中毒が原因であることが不明なまま治療に当たらなければならない場合もある。

日本中毒学会では「急性中毒の標準治療」を学会のウェブサイトで公開している。→ https://www.j-poison-ic.jp/general-public/

安全の確保と2次汚染の防止

原因毒物によっては、医療者側に2次汚染をもたらす可能性がある。特に胃内容・嘔吐物は、クロルピクリン、石灰硫黄合剤、アジ化ナトリウム、ヒ素などのように、ガス状の毒性物質を出す場合もあり、注意を要する。
原因物質に関して可能な限り情報を集め、適切な防護衣の装着、治療室の換気などに留意しなければならない。

情報収集と原因物質の特定

意識があれば本人、家族や友人などの関係者、救急隊からの現場状況の報告で、空き容器や薬袋、PTP(press through pack:薬の包装シート)などを確認し、原因物質や服毒量を判断する。
既往歴、処方歴、農薬や殺虫剤などが入手しやすい環境であるかなども、毒物を推定する手がかりとなる。
服毒してからの経過時間も重要であり、可能な限り推定する。

しかし必ず適切に情報が得られるとは限らない。特に自殺・自傷行為や、第3者による加害行為である場合など、得られる情報が真実でないことさえもしばしばある。
原因物質が単一でないこともあり、臨床像と整合性があるか確認しながら診療を進めることになる。

患者の胃内容、尿、血液、あるいは持参した原因物質を分析することにより、原因物質を同定できる場合がある。
簡易検査キットは簡便で迅速に結果が得られ、有用である。しかし偽陽性や偽陰性の可能性、あるいは常用している薬物が陽性になっているだけで、目の前の急性中毒の原因とはいい難い場合もある。
陽性になった場合でも、中毒の原因として臨床像と矛盾がないかは常に確認する。

ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーなどを用いた機器分析は、血中濃度が治療方針の決定に有用なアセトアミノフェン中毒、グルホシネート中毒などで、特に有用性が高い。
しかし多くの施設で緊急に分析結果を得るのはなかなか困難であろう。原因毒物を同定できない場合も含めて、のちの分析のために血液、尿、胃内容などの検体は保存しておく方がよい。

トキシドローム

情報が乏しく、原因物質が同定できないまま治療を開始する場合もある。
トキシドロームは患者の症候から、大まかにグループ分けされた中毒原因物質を推定し、治療方針を立てるという考え方である。
たとえば、縮瞳、流涎、下痢、嘔吐などが見られれば「コリン作動性トキシドローム」と判断して治療を開始する、などである。

全身管理

急性中毒では、バイタルサインの異常をきたす例、呼吸循環の問題から急変する例も多く、その対処が治療の成否を大きく左右する。通常の救急患者と同様に、A(気道)、B(呼吸)、C(循環)の管理が行われる。

意識障害や嘔吐を合併する例では、容易に気道閉塞や誤嚥を起こしやすい。
原因物質の粘膜刺激性が高い場合は、喉咽頭攣縮、気管・気管支攣縮口腔、粘膜の浮腫などによる気道のトラブルが起こりうる。刺激性の強いガス状の物質を吸入した場合は、肺水腫の可能性を考える。
QT延長・QRS幅拡大、各種不整脈など心電図変化をきたす中毒も多いので、心電図、SpO2、血圧のモニターは確実に行う。その他、けいれん、体温異常(低体温、高体温)を合併することも多く、それに応じた対症療法が適切に行われる。

原因薬毒物の吸収阻止

経口摂取された薬毒物の消化管からの吸収を阻止し、体外に除去する方法として、催吐、胃洗浄、活性炭・緩下剤の投与、腸洗浄がある。
だがエビデンスには乏しく、生命を脅かす可能性がある合併症のリスクがある方法もあり、適応となる例は実際には少ない。

催吐

臨床的有効性が明らかではなく誤嚥のリスクもあり、現在は医療機関で行われることはない。
吐根シロップも2012年に国内販売中止となった。

胃洗浄

臨床で以前は頻回に実施されていたが、近年は激減している。胃洗浄の臨床的な有効性は明らかではなく、一方で生命にかかわる合併症のリスクもある。
もし実施するのであれば専門的な知識をもった医師が行うべきである。

日本中毒学会の「急性中毒の標準治療」では、毒物を経口的に摂取したのち1時間以内で、大量服毒の疑いがあるか、毒性の高い物質を摂取した症例に適応がある、としている。
生命を脅かす可能性のある量の薬毒物を服用していないケースまで胃洗浄をすべきではない。

胃洗浄の禁忌

  • 意識障害、咽頭反射の消失、けいれんなどを合併しているにもかかわらず、気管挿管などの確実な気道確保がなされていない。
  • 石油製品、有機溶剤を摂取した場合。重篤な化学性肺炎を起こす可能性がある。
  • 強酸や強アルカリなどの腐食性毒物を摂取した場合。病変の再曝露により悪化、穿孔の可能性がある。
  • 胃の生検や手術を受けた直後で出血や穿孔の危険がある場合、胃切除後の患者。
  • 明らかな出血性素因、食道静脈瘤、血小板減少症がある場合。

活性炭

活性炭は腸管内の薬毒物を吸着して吸収を阻止し、体外への排泄を促してくれる。
活性炭の単回投与は、アスピリン、アセトアミノフェン、バルビツール、フェニトイン、テオフィリン、三環系・四環系抗うつ薬などに有効とされている。

逆にアルコール類、強酸、強アルカリ、エチレングリコール、金属類、臭化物などは、活性炭に吸着せず無効とされている。
活性炭に吸着される物質を摂取してから1時間以内であれば、活性炭単回投与の実施するとよい。

消化管に閉塞、穿孔がある場合は禁忌。また合併症として、嘔吐、誤嚥、便秘、消化管の閉塞などが起こりうるため、十分注意する必要がある。

活性炭投与は比較的リスクの低い消化管除染法とされ、多くの指針で推奨されている。
微温湯に懸濁して飲ませる。しかし活性炭は独特の感触からなかなか飲みにくいため、患者の協力が得られない場合も多い。実施が困難であれば、無理をして実施する必要はない。

緩下剤

緩下剤の投与は、臨床で慣習的に行われてきたが、予後を改善したとの研究はない。日本中毒学会の「急性中毒の標準治療」でも緩下剤の単独投与は推奨しておらず、活性炭と結合した中毒物質の腸内滞在時間を短くするために、活性炭とともに使用することを推奨している。
実施するなら塩類下剤よりも糖類下剤(ソルビトール)が勧められている。

腸洗浄 

未吸収薬毒物の排出を促進することを目的に、多量の洗浄液を上部消化管から投与して全腸管を洗い流す方法。
洗浄液としてはポリエチレングリコール電解質液が使用されることが多い。
通常は経鼻胃管か十二指腸チューブから投与される。現時点ではエビデンスの確立した治療とはいい難い。

学会では金属類(鉄、ヒ素、鉛など)の大量服用、医薬品では徐放剤、腸溶錠、ボディーパッカー(コンドームなどに入れて飲み込み、まんまと麻薬を密輸するヒト)などが適応となりうるとしている。

腸閉塞、消化管出血、消化管穿孔が疑われる場合、持続性の嘔吐、気道確保が不十分な意識障害、ショック状態などが見られる場合は行うべきではない。

排泄促進

  • 強制利尿:大量輸液、利尿薬を使用して尿量を増加させて薬毒物の排泄を促す方法。しかし尿量が増加しても希釈尿が増えるばかりで、薬毒物の排泄はほとんど増えないことが多いので、現在は積極的に行われていない。
    適切な輸液管理、循環管理により、適切な尿量を保つことが重要。
  • 尿アルカリ化:サリチル酸、バルビタール系薬物に関しては、尿をアルカリ化することにより排泄が促進される。実施する場合、尿pH値7.5以上を目標とし、重炭酸ナトリウム液20〜40mLの反復静注または点滴静注を行う。
    低カリウム血症、重篤なアルカローシスをきたさないよう注意する。
  • 血液浄化法:急性中毒において、血液透析、血液灌流などの血液浄化法が考慮される場合がある。
    しかし臨床的な有用性は限られている。血液浄化法による除去効果は、薬毒物の体内における分布状態により異なり、分布容積Vd)が指標となる。
    Vdが小さい薬毒物であれば、血液浄化法により効率よく除去されることが期待できるが、Vdが大きい薬毒物では、血中よりもほかの組織に多く分布するため、血液浄化法により血中から除去しても臨床的な効果は乏しいであろう。
    Vdが小さい薬毒物の場合でも、腎排泄が良好で血中の半減期が短い場合は、血液浄化法を実施するまでもなく効率よく排泄されるため、臨床的な意義は乏しい。

    急性中毒において血液浄化法が適応となる例は、実際にはそう多くない。
    血液浄化法が考慮される中毒原因物質としては、メタノール、エチレングリコール、テオフィリン、サリチル酸、バルプロ酸などくらいか。
  • 活性炭の反復投与:腸肝循環をする薬毒物では、すでに吸収された薬毒物の排泄促進として、「活性炭の繰り返し投与」が考慮される。肝臓で代謝されて、腸管内に分泌される薬毒物や代謝産物を活性炭に吸着させる。
    あるいは分布容量が小さな薬毒物では腸管粘膜を介した拡散のメカニズムにより腸管内の活性炭に吸着させることで排泄を促す。カルバマゼピン、フェノバルビタール、テオフィリンなどで有効とされる。

解毒、拮抗療法

日常遭遇する急性中毒で特異的な解毒・拮抗療法がある例はそう多くはない。ほとんどの例で呼吸循環管理、対症療法が優先される。
だが解毒・拮抗療法がある場合は、適切な実施により予後が大きく左右されることがあり、代表的なものは知っておくことが望ましい。
特にシアン化合物中毒の場合は、迅速な解毒拮抗療法が必要である。窒息死してしまうから。

近年、脂溶性の高い薬毒物による重症中毒症例に対する、脂肪乳剤の急速投与による解毒拮抗療法が注目されている。特に局所麻酔薬中毒に関しては、各種ガイドラインに記載され、エビデンスが蓄積されつつある。

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